こんにちは、名古屋・柳橋市場でマグロ仲卸を営んでいる大伸のケンです。
今年、「クロマグロが歴史的豊漁!」というニュースを目にした方も多いと思います。「じゃあ、美味しい本マグロが安く食べられるの?」と期待した方もいるのではないでしょうか。
でも、毎日競り場でマグロを見ている仲卸として、正直に言わせてください。
今の時期のクロマグロは、脂がなくて使い物にならないんです。
「たくさん獲れる」と「美味しい」は別の話
豊漁のニュースは事実です。でも、獲れる「量」と、マグロの「質」はまったく別の話。夏のクロマグロは、どれだけ獲れても脂の乗りがまるで違います。
なぜか。魚は、寒いから身に脂が乗るんです。
ブリを思い出してください。有名なのは富山県・氷見の「寒鰤(かんぶり)」ですよね。冬の冷たい海を泳ぐ魚は、冷たい水から体を守り、エネルギーをたくわえるために、体にしっかり脂をためこみます。だから冬の魚は美味しい。マグロもまったく同じ理屈です。クロマグロの本当の旬は、海が冷たくなる冬なんです。
逆に、海があたたかい夏は、脂をためこむ必要がありません。夏のクロマグロがさっぱりしてしまうのは、マグロが悪いわけではなく、季節としてそういうものなんです。
じゃあ夏はどうする?答えは「地球の裏側」
「じゃあ夏は脂の乗ったマグロは食べられないの?」というと、そんなことはありません。ここからが、プロの世界の面白いところです。
日本(北半球)が夏のとき、地球の反対側の南半球は冬です。つまり、オーストラリアやニュージーランドの海は、今まさに真冬。そこを泳いでいるミナミマグロ(インドマグロ)は、冷たい海でしっかり脂をたくわえて、ちょうど良くなっているんです。
アイキャッチの写真を見てください。これが今の時期のミナミマグロです。背中側の濃い赤から、腹側にかけて白っぽく変わっていく、この脂のグラデーション。夏にこれだけの脂を持っているマグロは、南半球育ちならではです。
ミナミマグロは「インドマグロ」とも呼ばれ、お寿司屋さんの世界では「インド」の一言で通じるほど、昔から高級マグロとして扱われてきました。濃厚な脂と、うま味の強い赤身が特徴で、クロマグロに勝るとも劣らない実力派です。
だから私たち仲卸は、夏になると南半球のミナミマグロに目を向けます。「夏はマグロがダメな季節」なのではなく、「マグロの旬が地球の裏側に移る季節」なんです。
クロマグロは北へ、ミナミマグロは南へ
ここで豆知識をひとつ。クロマグロとミナミマグロは、泳ぐ海域がはっきり分かれています。
クロマグロは北半球の海だけを回遊し、ミナミマグロは南半球の海だけを回遊します。おたがいの海域に入りこむことはありません。だから、北半球が夏で脂が落ちる時期には、南半球の冬で脂の乗ったミナミマグロが、入れかわるように旬をむかえる。地球の北と南で、マグロの旬がバトンタッチしているようなものです。うまくできているものですね。
一年じゅう美味しいマグロをお届けできるのは、じつはこの「北と南の使い分け」のおかげ。お店に並んでいる一切れのマグロの向こうには、地球規模の物語があるんです。
「豊漁」のニュースだけを見て、「今がマグロの買いどき!」と判断すると、じつは損をしてしまうかもしれません。マグロの美味しさは、量ではなく、季節と海の温度が決めるもの。
私たち仲卸は、季節ごとに地球の北と南を見比べながら、そのとき一番いいマグロを選んでいます。夏は脂の乗ったミナミマグロを、そして冬になったら、いよいよ本領発揮のクロマグロを。
夏に美味しいマグロを食べたくなったら、ぜひ柳橋市場にお越しください😊


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